1 事業着手までの経緯

(1)昭和53(1983)年大渇水後の取組

 福岡都市圏における海水淡水化の検討については、福岡市水道局において水資源の一つとして調査研究がされていましたが、昭和53年の大渇水を一つの契機として、実験プラントの設置をはじめ、本格的な調査検討が行われていました。平成元(1989)年度には、福岡市開催のアジア太平洋博覧会の水道局出展パビリオンにおいて、(一財)造水促進センターがデモンストレーション事業として設置した海水淡水化装置を譲り受け、改造を加えた後、福岡市の離島である小呂島で簡易水道施設に有効利用され、平成3年の夏場から本格稼働しています。

 また、平成2年度からは、福岡市水道局が海水淡水化の大規模プラントの導入可能性調査を実施し、その結果、福岡周辺海域での逆浸透方式による導入は技術的に可能であり、かつ原海水の水質も特に問題はないとされました。

 

(2)平成6(1994)年大渇水後の取組

 このような中、平成6年の大渇水を契機に、著しく逼迫した水需要や頻発する渇水への対応策として、また流域外の筑後川水系に多くを依存する域内の自助努力の一環として海水淡水化導入に取り組むこととし、平成7年9月に福岡県の主導により「福岡都市圏海水淡水化導入研究会」が設置されました。これは福岡県と福岡都市圏合同で海水淡水化導入の実現に向けて、関係自治体が共通認識に立って具体的対策を図るための調査研究を行うものであり、施設規模、開発コスト、運用方法、事業主体等について検討されました。

 

・平成6年8月4日~平成7年5月31日

福岡大渇水

・平成7年9月5日

福岡県、福岡都市圏海水淡水化導入研究会を設置

・平成8年6月

同上、検討結果取りまとめ

 

(3)本格的導入の取組

 その後、平成8年6月に福岡県副知事、福岡都市圏21市町の助役、福岡地区水道企業団企業長、福岡市水道事業管理者等で構成する「福岡都市圏海水淡水化導入検討委員会」が設立され、「福岡都市圏海水淡水化導入研究会」での研究成果を基に検討を深め、導入のための基本的事項を決定しました。

 事業主体については、「県営方式」もしくは既存の水道企業団に県が出資・参画するなど、県が主体的にその役割を果たす必要があるとの意見が出され、平成9年3月に福岡都市圏広域行政推進協議会から福岡県知事に対し、県の積極的関与等の要望もありましたが、最終的には、既存の福岡地区水道企業団を基本としました。

 次に、施設規模については「第4次福岡県水資源総合利用計画」に基づき、日量50,000㎥を目標とし、早期完成と通水を目指すものとしました。その他、海水淡水化がダム等による水源開発に比べ割高であることから、コスト低減策が是非必要であり、そのための国庫補助制度の拡充や運営費への補助等が提案されました。また、県の役割として、県費補助、建設適地の選定や環境調査等広域的立場に基づき積極的な役割を果たしていくことを期待するなど精力的に意見交換がされました。

 平成9年10月には、関係市町議会の同意を得て、福岡県が「福岡地域広域的水道整備計画」を策定し、県との密接な連携のもとに、福岡地区水道企業団が事業主体となり、日量50,000㎥規模の施設整備に取り組むことを決定しました。

 一方、技術面においては、平成9年7月に学識経験者や関係行政機関で構成する「福岡都市圏海水淡水化施設検討準備委員会」を設立、海水淡水化施設の導入に当たって、基本事項である施設の建設適地や取水方法等について事前の調査検討が行われました。これらの事前検討を受け、平成9年11月に「福岡都市圏海水淡水化施設検討委員会」に格上げし、個別事項について精力的に検討が行われた結果、平成11年1月に建設位置は、福岡市東区海の中道地区、取水方法は浸透方式、淡水化は高効率逆浸透方式、放流は混合方式とする等の基本的事項の検討結果が報告されました。

 これらの検討作業を経て、平成11年2月の福岡地区水道企業団議会第1回定例会において海水淡水化導入計画が承認されました。これを受け同年3月に厚生省(現:厚生労働省、以下同じ)の水道用水供給事業の変更認可も承認されました。

 また、これに先立ち厚生省においては、平成4年度から海水淡水化施設を補助対象に追加し、国としても応援体制ができていました。その後、福岡都市圏の水事情が考慮され、要望活動等の成果もあり、当企業団海水淡水化施設を国庫補助対象にすることが平成7年8月に決定され、第1号の補助対象事業となりました。

 平成11年4月、福岡地区水道企業団による海水淡水化施設整備事業に着手しました。沖縄県に次ぐ本格的な水道専用海水淡水化施設として、また、日本最大規模の施設として注目されています。

 

平成8年6月12日

福岡都市圏海水淡水化導入検討委員会を設置

平成9年3月14日

福岡都市圏広域行政推進協議会から福岡県知事に要望書提出

平成9年5月2日

福岡都市圏海水淡水化導入検討委員会検討結果取りまとめ

平成9年7月18日

福岡都市圏海水淡水化施設検討準備委員会を設置

平成9年10月14日

福岡地域広域的水道整備計画を改定

平成9年11月

福岡都市圏海水淡水化施設検討準備委員会検討結果報告

平成9年11月10日

福岡都市圏海水淡水化施設検討委員会を設置

平成11年1月12日

福岡都市圏海水淡水化施設検討委員会検討結果取りまとめ

平成11年2月10日

福岡地区水道企業団議会、海水淡水化導入計画を承認

平成11年3月12日

福岡地区水道企業団水道用水供給事業変更認可(旧厚生省)

平成11年4月1日

海水淡水化施設整備事業に着手

平成11年7月21日

プラント施設及び取水施設の提案を公募

平成12年2月7日

海水淡水化施設整備事業提案審査委員会最優秀提案者を選定

平成12年5月24日

海水淡水化施設整備事業「プラント施設及び取水施設」工事等契約締結

平成13年2月

安全祈願祭を行い、プラント施設及び取水施設の工事に本格的に着手

平成14年8月

放流施設の工事に着手

平成15年3月

多々良混合施設の工事に着手

平成15年9月

下原混合施設の工事に着手

平成17年3月22日

海水淡水化施設竣工

平成17年6月1日

供用開始

 

2 海水淡水化施設整備事業の概要

(1)事業の目的

 福岡都市圏は地域内に一級河川を持たないことから、これまで筑後川からの広域利水を積極的に進め、安定給水の確保に努めてきました。また、ダム建設を始め、水資源の開発にも積極的に取り組んできましたが、少雨傾向や渇水の頻発に悩まされてきました。

 海水淡水化施設はそのような状況の中、福岡都市圏の著しく逼迫した水需要や頻発する渇水への対応として、また、筑後川水系に多くを依存する福岡都市圏の自助努力の一つとして、福岡地区水道企業団が事業を行ったものです。

 

(2)事業の概要

事業名 :海水淡水化施設整備事業

主要施設:取水施設、プラント施設、放流施設、混合施設、導水施設

施設能力:50,000㎥/日

事業年度:平成11年度~16年度

事業費 :約 408億円

 

(3)施設の概要

【海水淡水化施設】

施設名称:海の中道奈多海水淡水化センター(愛称:まみずピア)

設置場所:福岡県福岡市東区大字奈多1302番122

敷地面積:45,923.35㎡(企業団所有地=15,307.78㎡ 国有地借地=30,615.57㎡)

建  屋:鉄骨造(一部鉄筋コンクリート造)地上2階建  建築面積 16,058.05㎡(建ぺい率40%)

延床面積 21,201.84㎡(容積率60%)

取水方式:浸透取水方式(玄界灘) 浸透流速6m/日以下 集水面積約20,000㎡

取水量:最大 103,000㎥/日

前処理方式:浸透取水及びUF膜処理 令和4年11月から浸透取水のみ   

淡水化方式:高圧RO膜及び低圧RO膜を用いた逆浸透方式(淡水回収率 約60%)

生産水量:最大 50,000㎥/日

放流方式:福岡市下水道局和白水処理センター(現在は道路下水道局)の処理水との混合放流(博多湾)

 

【膜の種類】

高圧RO膜:脱塩を行うための膜

高圧RO膜のベッセル(上段)とエレメント(下段)

ベッセルは直径約40cm、長さ約2m90cm

エレメントは直径約28cm、長さ約1m40cm

 

 

圧RO膜:水質の調整のための膜

低圧RO膜のベッセル(下段)とエレメント(上段)

ベッセルは直径約25cm、長さ約5m35cm

エレメントは直径約20cm、長さ約1m02cm

 

 

【場外施設】 

多々良混合施設:陸水引抜ポンプ 最大引抜量50,000㎥/日 

調整池揚水ポンプ 最大導水量50,000㎥/日

下原導水ポンプ  最大導水量50,000㎥/日

 

長谷水圧調整水槽:有効容量70.8㎥×2池(越流壁前) 有効容量242㎥×2池(越流壁後)

 

下原混合施設:最大混合可能量 海淡系50,000㎥+牛頸系28,000㎥=78,000㎥/日(計画値)

 

導水施設:φ800mm×20,456m  φ700mm×692m(φ700mmは海の中道大橋水管橋部)

 

放流施設(混合放流):混合放流槽 有効容量156.6㎥×1池

 

 

3 施設計画

(1)基本方針

 施設計画の基本方針は、海水淡水化施設が他のダム事業等に比べ、維持管理費等が割高であることを考慮し、初期投資の抑制による資本費及び維持管理費の低減を図り、周辺海域、陸域の自然環境に配慮するものとしました。

 

(2)施設計画の検討

 施設計画については、「福岡都市圏海水淡水化施設検討委員会」において、福岡都市圏における海水淡水化施設導入の事業化にあたっての具体的事項について技術的かつ総合的な検討が行われ、次のような基本的な考え方が示されました。

 

① 建設適地は東部地区が妥当であり、今後の環境影響調査の結果や地元関係者の意見等を踏まえ、施設周辺の自然環境や漁業資源に十分配慮し、事業を推進する必要がある。

 

② 効率的かつ経済的な施設の導入の可能性については、高回収率逆浸透方式として、回収率60%の高回収を目指すものとし、実証実験状況等の情報収集に努め、長期的な信頼性や経済性等の総合的な判断をしていく。

 

③ 味やミネラル分を従来の水道水に近づけるために、福岡市との共同施設である多々良浄水場で海水淡水化した水と浄水場水を混合する。

 

④ 造水コストの中で大きな割合を占める電力費の低減化を図るため、省エネ機器の採用等の積極的・効率的利用を目指す。

 

⑤ 取水方式については、地質調査や関係者からの提案も踏まえて、各種取水方法の検討を行い、清澄な海水の取水が期待され、施設全体の費用対効果の面でも経済的であり、環境への影響も少ない、浸透取水方式を基本として実施に向け検討を進めていく。

 

⑥ 放流方式については、海淡放流水(濃縮海水)と下水処理水の混合放流を湾内で行えば、博多湾の水質保全に寄与するとのシミュレーション結果を受け、放流水の有効活用及び博多湾の水質保全の観点から湾内放流の実施に向けて、積極的に検討していくことが望ましい。

 

⑦ 環境影響調査書に対する検討結果は、所要の調査が実施され、適切な環境保全策等を講じれば施設設置に伴う環境影響も小さいものとなるので、今後、この調査結果を十分踏まえて事業を推進する。

 

(3)施設の特徴

 当企業団の海水淡水化施設は、上述のような基本的な考え方を基に、最新の技術を導入しており、次のような特徴があります。

 

① 浸透取水方式の採用により、清澄な海水を安定的に取水できる。

 

② 前処理にUF膜を採用することにより、懸濁物質や各種ウイルスも除去できる。

※浸透取水の効果が非常に良好であることから、令和4(2022)年11月からUF膜を省略した生産を開始している。

 

③ 淡水回収率60%を達成することにより、低コストの水を生産できる。

 

④ 低圧RO膜を併用することにより、良質な水質を確保できる。

 

⑤ 動力回収装置を設置することにより、省エネを図り電力を低減できる。

 

⑥ 濃縮放流水と下水処理水の混合放流により環境保全に寄与できる。

 

 

4 建設事業

(1)工事発注

 海水淡水化施設の建設に当たっては、従来の考えに捉われることなく、新たな技術を提案してもらい、設計から施工を一括して行い、所要の性能を発揮するまで一元的に責任を持つ、性能一括発注方式を採用することが必要でした。これらの趣旨を最大限発揮する為に、公募型技術提案評価方式により民間の斬新なアイデアと最新の技術ノウハウを取り入れた提案を公募し、最優秀提案者を決定することとしました。

 提案の公募内容としては、次のような性能保証の項目を設け、工期は平成17(2005)年3月22日まで、上限額は275億円(消費税込み)、主な設計条件としては、浸透取水方式を原則とし、淡水化方式は高回収率の逆浸透法としました。

 

① 50,000㎥/日以上の能力を常時有すること。

 

② 生産水質は水質基準等の各種の基準を満足すること。

 

③ 環境保全に関わる基準値を満足すること。

 

④ 上記項目については15年間の性能保証(適切な維持管理が前提)。

 公募は4グループから提案があり、学識経験者や関係行政機関による提案審査委員会において審査された結果、平成12(2000)年2月7日 1グループを最優秀提案者に選定しました。当グループの提案内容は、取水施設の目詰まり対策、前処理設備にUF膜の導入、高回収率の高圧一段方式に低圧RO膜を加える等、性能面での確実性・信頼性が大きく評価されました。

 平成12年3月30日にプラント施設及び取水施設工事の契約相手方選定方針を企業団議会(用水供給事業促進対策委員会)に諮り、了承されました。建設工事共同企業体と工事契約を平成12年5月24日に締結し、プラント施設及び取水施設工事に本格的に着手しました。

 

(2)用地買収等

 プラント施設用地については、福岡市東区奈多地区の国有地で、福岡ドーム(現:福岡PayPayドーム)の約1.3倍の約46,000㎡の広さです。平成11(1999)年4月から国(旧大蔵省)と協議を開始し、比較的スムーズに用地交渉を行うことができ、平成11年12月27日に用地取得しました。なお、当該地区は、3分の1は用途指定財産として買い受け、3分の2は国有財産特別措置法に基づく無償貸与契約を締結し、借地としました。

 また、取水と放流の関係で漁業権者(取水側は福岡市漁業協同組合、新宮相島漁業協同組合、放流側は福岡市漁業協同組合、箱崎漁業協同組合)との補償協議が精力的に行われ、工事着工前の平成12年12月25日に妥結しました。

 海水淡水化施設の排出水の放流については、福岡市和白水処理センターの処理水と濃縮海水を混合して博多湾内へ放流することで、濃縮海水による放流先の影響を軽減し、下水処理水の放流先の変更により、博多湾奥部の水質改善に効果があることから、福岡市と鋭意協議を重ね、平成15年5月1日に協定書を締結し、施設の整備、管理、水質及び環境影響に対する責任等について取り決めました。

 次に、海淡生産水と陸水をブレンドする多々良混合施設については、地元である粕屋町戸原地区と協議を重ね、地元要望等の解決に期間を要しましたが、平成15年8月に決着し、工事に着手しました。なお、もう1か所の下原混合施設については、福岡市水道局との共同施設である下原配水場を活用することとし、関連工事は平成15年9月に着手しました。

 

(3)年度別事業

※建設時の苦労

・浸透取水施設の設置工事は、外海である玄界灘の水深11.5mの海底砂層を約20,000㎡掘削して設置するもので、工事は非常に難航しました。台風や嵐等による波浪の影響を受け、樹脂管が流出するなど、資材の保管等管理面で大変苦労しました。また、荒天時は工事ができないため、冬場を除き2年間の長期工事となりました。

 

・海水淡水化施設の建設地は、海の中道に位置し、当然のことながら海に近いことから地下水位が高く、排水先の確保に難渋し、予想以上に基礎工事が難航しました。

 

 

(4)事業費及び財源 (単位:千円)

区 分

全体事業費

事業費

取水設備費

5,006,797

浄水設備費

34,578,829

事務費

1,174,404

40,760,030

財源

企業債

3,291,000

国庫補助金

19,328,454

県補助金

3,221,460

出資金

12,885,600

その他
(事業財源)

2,033,516

40,760,030

※事業費は、建設利息及び受託工事分を除く

 

5 供用開始・運転維持管理の状況

 施設が概成した後、平成16(2004)年当初より約1年間にわたって総合試運転を行い、進捗は順調でした。平成17年4月1日からの供用開始を予定していましたが、通水直前の3月20日に発生した福岡県西方沖地震により、企業団の施設としては大きな被害は無かったものの、唯一海水淡水化施設の導水管が一部被災し、通水に支障が生じました。当時は渇水の影響で水事情が思わしくなく、海水淡水化施設の稼働が待ち望まれていました。そのような時期でしたが、やむを得ず導水を延期しました。その間、復旧のための補修・点検に全力をあげて取り組み、平成17年6月1日から30,000㎥/日、7月1日から40,000㎥/日、7月11日に最大50,000㎥/日を導水する等、本格的な運転を開始しました。

海水淡水化施設内部(高圧ROポンプ)

高圧ROポンプは5台あり、1台あたり10,000㎥/日の淡水を生産する能力があります。

海水淡水化施設内部(高圧RO膜)

高圧RO膜は1つの筒(ベッセル)につき2本の膜エレメントが入っています。膜エレメントは合計2,000本(ベッセルは合計1,000本)あります。

 

(1)運営体制

 海水淡水化施設の運転は、長期的に安定した水量及び水質を確保するとともに、維持管理費をできるだけ節減することが重要です。また、海水淡水化施設としては日本最大の規模で、かつ最新の技術を取り入れており、さらに供用開始から15年間の性能保証を設計施工業者に課したことから、運転操作業務は性能保証等を確実に履行できる業者に委託し、24時間2名常駐の交代勤務としています。

 なお、それ以外の場外施設を含む、運転計画等施設管理全般及び水質管理については、企業団職員が行うことで責任を明確にしています。

 15年間の性能保証後の令和2(2020)年度からは、公募による業者委託を行っています。本委託の契約期間は1年間ですが、受託者の誠実かつ確実な業務履行が認められた場合は、次年度以降最長4年(契約最長期間5年)までの特命随意契約としています。

 

(2)稼働状況 

 海水淡水化施設の運転計画について、稼働当初は需要量が多い夏場の7月から9月の3か月間を最大の50,000㎥/日、需要が減少する他の9か月間は40,000㎥/日とし、膜の交換や諸設備の点検・修理等は非需要期に1系統ごとに行うこととしていました。今日においても夏場の50,000㎥/日の設備能力確保や、非需要期に点検・修理等を行うという運用方法は引き継がれておりますが、大山ダムの供用を開始した平成25(2013)年以降の年間平均生産水量は20,000㎥前後となっており、通常時の契約電力も30,000㎥の運転を想定したものになっています。

 運転状況としては、構成団体の水の需給状況、さらに河川の流況やダム等の水源状況を考慮するとともに、頻繁に発生する異常少雨による渇水や河川などの水質異常、及び漏水事故等、緊急時に対して有効に稼動しています。年間生産水量は、稼働当初~平成24年にかけて1千万㎥から1千5百万㎥、日平均で30,000㎥から42,000㎥で推移しており、大山ダムの供用を開始した平成25年以降は6百万㎥から9百万㎥、日平均20,000㎥前後で推移しています。海水淡水化施設は企業団独自の水源であり、天候に左右されない無尽蔵の海水が原水であること、 生産水量の増減が比較的短時間で行えることから、福岡都市圏にとって極めて重要な施設といえます。

 なお、稼働実績は、下表に示すとおりであり、平成24 年9月16日には、運転開始以来生産水量1億㎥を突破しました。

稼働実績等

年度 生産水量(千㎥/年) 最大生産水量 (㎥/日) 最小生産水量 (㎥/日) 平均生産水量 (㎥/日) 5万㎥稼働日数※2 備 考
(渇水・漏水事故等)
H17※1 12,115 50,000 30,000 40,000 135 夏季渇水 冬季渇水
18 10,973 30,000 30,000 30,000 0  
19 14,713 50,000 25,000 40,000 130 福導漏水
20 12,988 50,000 20,000 36,000 49  
21 13,559 50,000 20,000 37,000 24 冬季渇水
22 15,214 50,000 22,000 42,000 161 福導漏水 冬季渇水
23 14,227 50,200 28,000 39,000 85  
24 14,212 50,000 20,000 39,000 70 9/16 1億㎥突破
25 7,783 30,000 10,000 21,000 0  
26 7,389 31,000 0 20,000 0  
27 7,747 32,000 0 21,000 0  
28 7,431 27,000 0 20,000 0  
29 7,902 30,000 10,000 22,000 0  
30 6,746 27,000 0 18,000 0  
R1 7,301 50,000 0 20,000 20 夏季渇水
2 7,344 30,000 10,000 20,000 0  
3 8,734 30,000 10,000 24,000 0  
4 7,827 30,000 0 21,000 0 工事に伴う導水停止

※1 平成17年度:供用開始の6月1日以降の値      

※2 5万㎥稼働日数:45,000㎥/日以上

 

(3)維持管理費

 維持管理費は、人件費、動力費、薬品費、委託料、修繕費、膜交換費、その他であり、その内、動力費が約38%、膜交換費が約11%と全体の約49%を占めています(令和4(2022)年度)。この費用の節減が重要課題です。

 動力費である電気料金については、電力会社と協議し、適宜契約電力を見直す等低減に向け、鋭意努力しています。また、省エネ対策として濃縮海水に残っている圧力を有効に活用するため、動力回収装置を設置し、高圧ポンプの消費電力を約20%削減しています。さらに、夏場のピークカット運転や日々の運転操作においても電力の低減化を目指しています。(電力契約のピークカット割引は平成31年度から廃止)なお、海水淡水化センターは第一種エネルギー管理指定工場(※)となっており、エネルギー管理員の選任など、省エネ対策等が義務づけられています。

 膜の交換については、契約書において適正な維持管理のもとでの性能保証項目として、膜の交換率を定めており、高圧RO膜15%、低圧RO膜・UF膜20%以下と定めています。膜の交換周期につきましては、膜の交換費用が高額のため、膜の交換の延長に取り組み、費用削減に努めています。

 膜の交換周期については以下のとおりです。

 UF膜の交換周期は、当初5年だったものを浸透取水の水質が良好なことから6年、7年、8年と段階的に延長してきました。さらに膜の省略試験を令和元年から令和2年にかけて1年間行い、問題ない結果が得られたため、UF膜の省略が可能と判断し、令和4年11月から省略運転を行っています。

 また、低圧RO膜の交換周期は、当初5年、平成26年から6年、令和2年から7年に延長しています。

 なお、高圧RO膜については、当初から6~7年の交換周期です。

 

※第一種エネルギー管理指定工場

 昭和54(1979)年に「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法:平成22(2010)年改正)が制定されました。法第7条第一項の規定に基づき、工場等において年度のエネルギー使用量が原油換算で3,000kL以上の場合は、エネルギーの使用の合理化を特に推進するエネルギー管理指定工場として経済産業省から指定を受けています。工場単位でエネルギー使用量等の合理化を図る観点から、エネルギー管理統括者等の選任、使用量、使用の状況、設備等に関し、中長期計画書、定期報告書の作成、提出が必要であり、そのため、当センターにおいては、省エネルギー推進委員会を設置し、消費電力の削減に取り組んでいます。

維持管理費実績(単位:千円)

年 度 人件費 動力費 薬品費 委託料 修繕費 膜交換費 その他 計※1
H17 108,487 696,074 43,111 147,036 6,328 0 60,781 1,061,817
18 78,573 637,403 56,747 190,013 49,858 0 43,625 1,056,220
19 77,159 808,127 55,178 216,825 65,494 325,288 46,748 1,594,819
20 76,373 786,065 68,685 248,809 203,170 540,404 45,305 1,968,810
21 74,079 749,061 61,562 251,628 204,944 461,327 50,944 1,853,545
22 75,939 805,544 65,047 248,092 153,621 399,804 60,503 1,808,550
23 74,432 823,847 57,001 239,403 272,843 279,401 49,384 1,796,310
24 74,439 829,383 56,579 243,534 240,850 236,673 54,068 1,735,525
25 68,209 591,612 35,191 272,256 250,010 226,800 46,981 1,491,060
26 132,940 588,958 33,913 294,163 421,956 325,381 133,727 1,931,038
27 132,751 591,366 35,066 270,389 576,649 326,489 139,516 2,072,226
28 132,630 537,115 32,356 302,115 440,683 416,790 158,473 2,020,161
29 127,892 642,307 32,474 269,265 211,171 347,018 165,142 1,795,268
30 127,746 588,485 27,170 315,377 462,364 339,512 145,771 2,006,425
R1 127,541 683,277 35,461 350,813 399,441 330,265 135,380 2,062,178
2 143,748 613,175 35,164 554,909 121,828 258,820 122,463 1,850,108
3 139,994 722,952 39,466 581,662 106,947 226,656 104,895 1,922,574
4 164,746 929,153 46,124 720,263 172,166 272,221 110,247 2,414,921

※1 維持管理費及び計は四捨五入のため、合致しない。

 

電力使用量実績(場外を除く)

年度 生産水量
(千㎥/年)
電力使用量(千KWh) 電力原単位(千KWh/㎥)
H17 12,115 68,500 5.7
18 10,973 62,200 5.7
19 14,713 85,200 5.8
20 12,988 73,000 5.6
21 13,559 76,700 5.7
22 15,214 85,000 5.6
23 14,227 79,300 5.6
24 14,212 76,800 5.4
25 7,783 42,600 5.5
26 7,389 39,800 5.4
27 7,747 41,600 5.4
28 7,431 39,800 5.4
29 7,902 43,100 5.5
30 6,746 37,100 5.5
R1 7,301 41,500 5.7
2 7,344 41,000 5.6
3 8,734 47,100 5.4
4 7,827 42,600 5.4

 

 

(4)生産水の水質

 原海水の取水については、自然のろ過作用を利用した浸透取水方式を採用しており、河川水等の陸水と比べ、原海水水質は非常に安定しています。次に、UF膜により原海水をろ過(※)し、濁質や細菌類を除去します。浄水処理は、高圧RO膜による逆浸透処理で脱塩し、かつ低圧RO膜により水質調整しており、生産水は非常に清浄で良質の安全性が高い水質です。また、生産水は塩分の除去と共にミネラル分まで除去されるため、陸水である多々良浄水場の水と混合して送水しています。

 システム的には非常に複雑で、逆浸透膜は原海水の水温や水質等の影響を受け易く、膜も経年劣化があることから、取水から浄水、混合施設に至るまで種々の水質検査を計画的に実施し、効率的で安全性の高い水質管理を行い、運転開始の平成17(2005)年6月から現在に至るまで、陸水系浄水場との混合水は、法で定める水質基準をすべて遵守してきています。

※UF膜によるろ過は令和4(2022)年11月から省略。

 

(5)更新事業について

 供用から15年以上が経過した当施設は、設備更新に向けて平成29(2017)年度から施設の劣化診断や新技術の調査等を行ってきました。令和3(2021)年2月議会においては、設備更新の方向性を報告しています。

 更新の方向性では、既存設備を運転しながらの更新となることやコスト削減、事業費の平準化等を踏まえて検討を行った結果、高圧RO膜は引き続き中空糸膜による個別更新とし、UF膜の省略、動力回収装置に圧力交換方式を導入することを合わせて進めていくこととしています。

 UF膜の省略は浄水方法の変更に該当するため、令和4年3月に、第4回拡張事業第3回変更認可を取得しています。

 令和4年度からは設備更新係が新設され、更新事業に鋭意取り組んでいます。

 

(6)その他

 海水淡水化施設の濃縮海水は、福岡市の和白水処理センター処理水と混合して、博多湾へ放流していますが、放流水による影響調査を実施した結果、放流水は放流先の海水と混合しているため、海生生物の生育環境への影響は特にないものと考えられます。

 また、濃縮海水の有効利用については、平成13(2001)年度に「海水淡水化濃縮塩水等活用事業化検討委員会」を設置し、浸透圧発電、製塩、食品、化粧品、医療品製造、健康増進等様々な事業化の可能性を検討してきており、過去には食塩として販売されていた時期もありました。現在は魚の餌の飼育等に利用されています。

 次に、海水淡水化水のペットボトルについては、「玄界灘のめぐみ 海淡水」として500mlを、当施設の竣工式用に製作したのが始まりで、その年の緑化フェア(花どんたく)でPR用として配布、その後、福岡都市圏のイベント等でPR用として無料配布していました。現在では筑後川からのめぐみとして牛頸浄水場の水で長期備蓄可能なアルミ缶のボトル水を製作し、PRや災害用に活用しています。

 この施設は最先端で高度な技術を駆使しており注目度も高く、また海水淡水化施設としては日本一の規模であることから、国内外からの見学者が多く、小・中学生や一般市民の見学、各都市の議会・行政、マスコミ、企業等、海外では中国を筆頭に韓国、ベトナム等世界各地から視察に訪れ、平成18年6月に見学者が1万人に到達、平成21年11月に3万人に、平成25年8月には5万人に到達するなど多くの注目を集めています。令和5(2023)年12月末現在までに、144か国の国々から延べ80,497人の見学者が訪れています。