1 福岡都市圏の渇水状況

 福岡地区水道企業団は昭和48(1973)年に設立し、昭和58年の供給開始以来40年間で、13回の渇水に見舞われています。福岡都市圏は、一級河川が無く、地理的・地形的に水資源に恵まれない地域であり、過去においても未曾有の渇水となった昭和53年、その16年後の平成6(1994)年にも大渇水に見舞われ、大規模な制限給水を余儀なくされ、住民生活に支障をきたしました。
 利水安全度を考慮した安定供給水量を導入する平成25年以前の直近10年間においては、構成団体への送水を制限した年が平成16年、17年、18年、22~23年となっており、10年の間に5回と、ほぼ2年に1回の割合であり、筑後川の利水安全度が2分の1と言われていることと一致しています。特に、平成14年と22~23年は、筑後川水系渇水調整連絡会が開催され、渇水調整が行われる等、厳しい状況でした。
 また、大山ダムの供用開始と合わせて、筑後川の利水安全度を考慮した安定供給水量を導入した平成25年度以降では、令和元年に渇水対策本部を設置する等、厳しい状況でしたが、構成団体への送水制限は行われていません。

【取水制限・送水制限・渇水対策本部等設置の実績】

取水制限

送水制限

渇水対策本部等設置

期間

日数

制限率

期間

日数

制限率

期間

日数

S60

S60. 1.18~S60. 1.25

8

20%

同左

8

20%

H 3

H 3. 2. 7~H 3. 2.15

9

10%

同左

9

10%

H 4

H 4.12. 3~H 5. 2.15

75

10~45%

同左

75

10~45%

H 5. 1.12~H 5. 5.12

121

H 6

H 6. 7. 8~H 7. 5.31

328

10~55%

同左

328

10~55%

H 6. 7. 6~H 7. 7. 5

365

H 7

H 7.12. 8~H 8. 4.30

145

20~50%

同左

145

20~50%

H 7.12.12~H 8. 6.25

197

H11

H11. 1.14~H11. 6.25

163

10~50%

同左

163

10~50%

H11. 2. 9~H11. 6.29

141

H14

H14. 8.10~H15. 5. 1

265

10~55%

同左

265

10~55%

H14. 9.30~H15. 5. 1

214

H16

H16. 3. 1~H16. 5.17

78

10%

同左

78

10%

異常少雨対策本部

78

H17

H17. 6.23~H17. 7.12

20

10%

同左

20

約8%

H17. 6.27~H17. 7.12

16

H18

H18. 1.13~H18. 4.18

96

10~20%

※1

78

約7%

H18. 2. 7~H18. 4.18

71

H22

H22. 1.15~H22. 1.22

6

10~20%

同左

6

2~10%

異常少雨対策本部

123

H22

H22.11.26~H23. 6.17

204

10~40%

同左

204

7~25%

H22.12.24~H23. 6.17

176

R1

R1.5.29~R1.7.31

63

10~34%

R1.6.25~R1.7.29

35

※1 H18. 1.31~H18. 4.18

 

2 主な渇水の状況と対応

(1)昭和53(1978)年の渇水

ア 気象状況

 昭和53年の渇水は、前年からの気象状況の影響を強く受けました。昭和52年1月から6月までの半年間は平年並みの降水量でしたが、7月以降著しい少雨傾向となりました。年が改まってからも、3月から5月までの降水量はわずかに161.5㎜(平年値の43.1%)と福岡管区気象台開設以来89年ぶりの異常少雨となりました。その後、6月には平年より多い雨量を記録したものの7月から9月までの降水量は269.5㎜(平年値の41%)と極端に少なく、過去89年間で第1位の渇水となりました。

 このような状況の中、春日市、那珂川町は、5月14日からバルブ調整による10%カットの給水制限を実施しました。さらに、5月20日からは福岡市及び大野城市が、6月1日からは筑紫野市、太宰府町、宇美町が相次いで給水制限を実施しました。

 

イ 渇水への対応

 昭和53(1978)年当時、筑後大堰及び福岡導水事業はまだ完成しておらず、当企業団からの用水供給は開始されていませんでした。福岡市では、昭和53年6月のはじめには乙金浄水場系統の唯一の水源である江川ダムからの水がなくなるという緊急事態を迎え、5月29日、当時完成したばかりで試験湛水期間中の寺内ダムからの緊急的な導水について、筑後川の河川管理者である建設省に要請されました。

 5月30日には、緊急放流の具体的な提案が関係者に提示され、翌31日、関係機関、関係利水者間で、長時間に渡る協議の結果、今後の筑後川の水源開発には、流域優先、既得水利権者への配慮をもって当たる旨の福岡県、当企業団及び福岡市の三者による確認を受けて、関係利水者の理解と了承が得られました。

 そして、同日、九州地方建設局(現:九州地方整備局)、福岡県、佐賀県、当企業団、水資源開発公団(現:独立行政法人水資源機構)及び福岡市の6者が、今回の緊急放流は、異常渇水による緊急事態に対処するための異例の措置であり、先例としないこと、福岡導水事業の先行取水であるとは解さないことなどを盛り込んだ覚書に調印して、関係者間の同意が成立し、6月1日の寺内ダム管理所の管理開始と同時に緊急放流が開始されました。

 緊急放流は、当企業団の貯留量とみなされた貯水容量について、佐田川~寺内導水路~小石原川~乙金浄水場と本来でない経路を通して、4次にわたり実施されました。福岡地区上水道(福岡市)へは合計269万㎥の導水が行われましたが、この緊急導水がなければ、一層の給水時間の制限強化が行われたことは想像に難くなく、その果たした役割は大きなものであったと思われます。

 

(2)平成6(1994)年の渇水

ア 気象及び水源の状況

 平成6年は全国的に記録的な猛暑と少雨となり、渇水による水道の減圧給水または時間給水の影響が、最大時(9月15日)には約1,180万人にも及びました。福岡においても夏季6・7・8月の各月の最高気温は観測開始以来の記録を更新し、年間降水量も観測開始以来106年間で最少の891㎜(平年値の56%)でした。

 筑後川水系においても、日田で1,024㎜(平年値の57%)と観測史上最低の降雨となるなど同様の状況であり、筑後川の流況が悪化し、平成6年5月には満水であった江川・寺内ダム、合所ダムの当企業団持分も5月下旬からは急激に減少し始めました。7月6日には九州地方建設局(現:九州地方整備局)と福岡県に渇水対策本部が設置され、同日、当企業団も渇水対策本部を設置しました。

 

イ 渇水への対応

 7月7日の筑後川渇水調整連絡会による第1次渇水調整以来14回もの渇水調整が行われ、当企業団は渇水調整の合意事項を受けて、最大55%の送水制限を行い、制限日数は延べ、328日間でした。8月10日には江川・寺内ダム、及び合所ダムの当企業団貯留水分がなくなり、以後渇水調整により、①江川ダムに貯留する福岡市分からの応援水 ②寺内ダムの不特定用水の取水 ③松原・下筌ダム等の貯留水の一部取水、また ④自流取水をさせて貰うことで、なんとか送水を続けることができました。

 当企業団の送水制限の影響を受けて、最初に太宰府市が7月21日から8時間断水に入り、9月中旬には住民への影響はピークに達し、当企業団が送水している5市9町1企業団のうち5市5町が給水制限を、3町1企業団が減圧給水を行い、約180万人に影響が及びました。

 福岡市、筑紫野市、太宰府市、宇美町においては最高12時間の給水制限が行われました。給水制限日数が昭和53(1978)年の287日を上回る295日に及んだ福岡市を最長に、100%給水を行った年末年始の6日間(須恵町は13日間)をはさんで、5市2町が200日以上の給水制限を実施しました。

 渇水期間中、各構成団体は節水広報、小中学校等のプールの使用中止、減圧給水、給水制限のほか、緊急水源の確保として、井戸の掘削や農業用水の活用等に努めました。また、筑後川取水に対しては、降雨によって一時的に100%取水が可能な場合には、真夜中でも連絡をとり送水量確保に努めました。

 平成7(1995)年4月には筑後川流域で平年を上回る量の降雨があり、筑後川流況も回復したため、6月1日取水制限が解除され、同日、九州地方建設局(現:九州地方整備局)の渇水対策本部も解散しました。

 しかし、6月の代掻き、田植え等農業用水の需要期を迎えて渇水の可能性が懸念されたため、当企業団と大部分の構成団体の渇水対策本部はその後も存続し、7月5日に解散しました。当企業団の渇水対策本部の設置期間は365日に及びました。

 

(3)平成14(2002)年の渇水

ア 気象状況

 平成14年の北部九州の降水量は、5月までは平年並みの降雨に恵まれたものの、6月以降少雨傾向となり、年間降水量は福岡市で1,371.5㎜(平年比84%)、日田市で1,349㎜(平年比73%)、筑後川瀬の下上流域平均雨量も1,660.6㎜(平年比76%)といずれも平年以下でした。

 当企業団の水源地域である筑後川流域での降水量は、6~7月は梅雨前線の影響が小さく、8~9月は太平洋高気圧に覆われて晴れの日が多く、秋雨前線や台風による影響が一部に偏ったため少ない状況でした。10月は平年値に近かったのですが、11月はまた少雨となるなど、梅雨期の6月以降の異常少雨により11月までの6か月間、連続して平年値を下回りました。福岡地方は9月以降、平年並みの降雨がありましたが、日田地方では平年値(6月~11月)が1,198.7㎜に対し、実績値は573㎜で平年比の47.8%と地域間で差がでました。

 また、瀬の下上流域平均雨量の年間降水量をみても、雨量資料のある過去53年間で昭和53(1978)年、平成6(1994)年に次いで3番目の少雨を記録するなど、筑後川の流況が著しく悪化しました。

 なお、12月以降は平年並みの降雨に恵まれ、ダムの貯水率も回復し、渇水状況から解放されました。

 平成14年の渇水の特徴は、福岡地方より筑後川流域が厳しい降雨状況であったため、この違いが水源状況に大きく影響したものです。

 

イ 当企業団における渇水対応等

 筑後川の流況悪化により、6月初めには満水だった江川・寺内、合所ダムの当企業団持分は、6月上旬より貯留制限、利水放流が開始され、江川・寺内ダムの当企業団持分が約60%になった8月10日から10%の自主節水を開始し、約40%となった8月21日に異常少雨対策本部を設置し、20%の自主節水に強化しました。さらに福岡県南広域水道企業団の持分が枯渇した9月13日からは、両企業団で総合運用を行う等の対応を段階的に実施してきました。しかし、福岡管区気象台の予報においても平年並みの降雨量が期待できないため、9月30日に渇水対策本部を設置しました。

 また、同日に国土交通省九州地方整備局、福岡県、福岡県南広域水道企業団にも渇水対策本部が設置されるとともに、関係行政機関による筑後川水系渇水調整連絡会が開催され、第1次渇水調整が行われました。渇水調整は「蛇口に影響が出ないこと」を基本に、第1次(9月30日)の筑後大堰の先使い等を皮切りに福岡市、両筑土地改良区、耳納山麓土地改良区、山口調整池からの水融通、佐賀東部水道企業団を含む3企業団によるダムの総合運用、松原・下筌ダムからの放流等、都合8回の渇水調整がされました。当企業団も渇水調整により、10月29日から30%の自主節水、11月26日から40%の自主節水、12月11日からは50%の取水制限、12月26日から55%の取水制限と段階的に強化してきました。

 8次に及ぶ関係者による水融通等の渇水調整や降雨により、関連ダムの貯水量も上昇に転じ、この窮状を乗り切ることができ、平成15(2003)年5月1日の第9次連絡会議で渇水調整が解除されました。

 当企業団の渇水対策本部は、筑後川水系の渇水調整が解除されること、12月以降の降雨量が平年並みとなり筑後川の流況も安定していること、当企業団持分のダム貯水量が回復傾向にあること、気象台の予報においても平年並みの降雨が見込まれること等から、214日間に及ぶ渇水対策本部を同日付で解散しました。

 なお、筑後川の取水制限により構成団体への送水の影響を軽減するため、山口調整池を使用したこともあり、当企業団の送水制限に対応できない構成団体が一部あったものの、福岡都市圏は筑後川水系に比べ、比較的降雨に恵まれたことで自己水源に余裕がある構成団体もあり、構成団体間における水融通で対応するなど、幸いにも各構成団体の蛇口への影響はありませんでした。

 また、渇水期間中は都市用水の確保について福岡県に対し2回にわたり要望活動を行うとともに、当企業団、構成団体は街頭キャンペーンや広報車、町内防災無線、ホームページ、垂れ幕等により節水PRを実施しました。

 

ウ 渇水の特徴

 ① 筑後川水系渇水調整連絡会における渇水調整

 筑後大堰や合所ダムの先使い、取水制限、他団体(福岡市、両筑土地改良区、耳納山麓土地改良区)からの応援水、松原・下筌ダムにおける貯留水からの緊急放流、山口調整池の活用などの渇水調整が実施され、蛇口給水が確保されました。

 特に、筑後大堰の先使いは渇水対応として大きな効果を発揮しました。筑後大堰の流域面積は2,315㎢で上流ダムに比べ極端に広く、少ない降雨でも直ぐに貯水量が回復するという特徴があります。そこで上流ダム群から利水放流すべき補給量を降雨により回復した筑後大堰の貯水量でまかなうことができ、上流ダム群の貯水量の温存を図ることができました。

 

 ② 降雨特性

 平成14(2002)年の降水量は、福岡地方に比べ筑後川流域が厳しかったことから、この違いが水源状況に大きく影響しました。瀬の下上流域平均雨量は雨量資料のある過去53年間で平成6(1994)年、昭和53(1978)年に次いで3番目の少雨を記録しました。なお福岡地方は同53年間で13番目でした。

 

 ③ 当企業団内の調整

 送水制限強化に対応できない構成団体もあったものの、上記降雨特性のとおり比較的水源に余裕のある団体もあったため、団体間での水融通を行いました。また、山口調整池を使った送水制限率の緩和を行ったことにより、蛇口への影響はありませんでした。

 

 ④ 山口調整池の活用

 山口調整池は福岡都市圏だけでなく、筑後川流域へも貢献でき渇水対応として有効に活用できました。(構成団体への送水量変更時において調整池としての機能を果たすとともに、390万㎥の有効容量に対し、512万㎥を補給して回転率は1.3となり、非常に効果的でした。)

 

(4)平成22(2010)~23年の渇水

ア 気象状況

 平成22年の筑後川流域(瀬の下上流域平均)の年間降水量は、2,243.3㎜で平年比の105.8%と結果的には平年並みであったものの、夏場の8月頃はラニーニャ現象の影響もあり、記録的な猛暑に見舞われ、台風に伴う降雨も少なく、また冬の厳しい寒さ等により、平成23年に入ってからも少雨傾向が続きました。

 平成22年8月から23年4月までの累計降水量は755.8㎜で平年の69.1%となり、雨量資料のある過去61年間で4番目に少ない降水量でした。年末にまとまった雨はありましたが、その後も少雨傾向が続き、福岡管区気象台においては、平成23年2月から4月までの累計降水量は菜種梅雨が無かったこともあり、145.5㎜と平年の48.4%となり、これは観測開始以来122年間の最少降水量でした。

 その後、平成23年5月中旬以降、前線の停滞や台風2号の影響でまとまった降雨があり、状況が好転、ダムの貯水量が飛躍的に回復しました。

 

イ 当企業団における渇水対応等

 平成22年8月以降、降水量が少なく筑後川流況が悪化し、筑後大堰近くの瀬の下基準地点で基準流量(40㎥/s)を確保するため、11月6日から関連ダム(江川・寺内ダム、合所ダム、筑後大堰)からの利水放流が開始されました。このまま利水放流が続けば江川・寺内ダムの当企業団持分の貯水量が11月25日には60%未満となることが予想されたため、11月17日に異常少雨対策本部を設置しました。

 11月26日に、江川・寺内ダムの当企業団持分の貯水量が61.8%となり、10%自主取水制限を実施、12月4日には、貯水量が39.3%となり、20%自主取水制限へ強化するとともに、江川・寺内ダムの貯水量を温存するため、筑後川本川からの取水を25%分とし、山口調整池より55%分の取水を開始しました。

 しかしながら筑後川の流況は、少雨傾向により一向に好転せず、ダム貯水量の更なる低下が見込まれたため、12月24日には渇水対策本部を設置しました。

 年末の降雨により一時的に持ち直したものの、平成23年1月以降再び少雨傾向となり、2月1日には福岡県南広域水道企業団の江川・寺内ダム持分が枯渇したため、当企業団の江川・寺内ダムの持分の残量を共同で使用する統合運用を開始しました。4月14日には、山口調整池が福岡導水事故等の緊急時に必要な容量(642.9千㎥、貯水率16.5%)となったため、山口調整池からの取水を停止しました。4月19日に、江川・寺内ダムの2企業団統合分の貯水量が6.1%となったため、30%自主取水制限に強化することとしました。4月20日には、福岡県の調整により福岡市から2企業団に対して、江川ダム貯水量100万㎥の水融通を受けました。

 4月21日に、福岡・佐賀両県知事から九州地方整備局長あてに筑後川水系渇水調整連絡会開催の要請があり、4月25日に関係行政機関による第1回連絡会が開催され、第1次渇水調整によって、取水制限の強化、更なる域内水源の活用などを行うことや佐賀東部水道企業団を含む3企業団による4ダム統合運用(江川・寺内ダム、合所ダム、筑後大堰)が合意決定されました。さらに、福岡市の江川ダム貯水量、鳥栖市、両筑土地改良区の江川ダム・寺内ダム貯水量180万㎥を3企業団で活用することが合意されると、翌日から40%取水制限を実施しました。

 5月に入っても依然として筑後川の流況は好転することがなく、更なる水融通が必要となり、5月10日には第2次渇水調整が行われ、新たに、福岡市と朝倉市の江川ダム貯水量、山口調整池貯水量及び寺内ダムの弾力的管理試験貯水量の170万㎥を3企業団で活用することとし、55%取水制限体制が予定されました。

 しかし、5月10日~12日に、この時期には珍しい台風の影響により大雨となり、筑後川の流況が回復傾向となったため、55%取水制限は実施することなく、5月27日には、第3回連絡会を開催、筑後川水系における渇水調整が解除され、40%取水制限から30%の自主取水制限へ緩和することになりました。その後、6月10日~12日の降雨によって、江川・寺内ダムの貯水量は72.9%まで回復したことにより、6月17日に昨年12月24日の設置から176日間続いた渇水対策本部を解散しました。

 なお、当企業団においては、随時、構成団体の担当部課長で構成する幹事会を開催し、構成団体との水源状況の情報共有と取水制限及び送水制限の実施を決定してきました。

 また、渇水状況が厳しかった平成23年4月28日に国土交通省九州整備局、福岡県、福岡市、福岡都市圏広域行政事業組合、当企業団合同で福岡市天神地区において、節水PR街頭キャンペーンを実施しました。その他の構成団体においても、それぞれの地域で節水PR街頭キャンペーンが実施されました。

 

ウ 渇水の特徴

 ① 筑後川水系渇水調整連絡会における渇水調整

 筑後大堰の先使い、取水制限、他団体(福岡市、両筑土地改良区、鳥栖市、朝倉市)からの応援水、寺内ダムの弾力運用による貯水量、山口調整池の活用などの渇水調整が実施され、蛇口給水が確保されました。

 ② 筑後川水系渇水調整連絡会の合意事項によらない水融通

 過去の渇水時における水融通は、筑後川水系渇水調整連絡会の調整により実施されていましたが、今回の渇水では、まず福岡県が県内の利水者間で調整を行うこととなりました。この調整で福岡市から当企業団及び福岡県南広域水道企業団に対して100万㎥の水融通が実施されました。

 

 ③ 筑後川流域と福岡都市圏における降雨特性

 当企業団の水源である筑後川流域降水量(瀬の下上流域平均)は福岡都市圏における降水量(福岡管区気象台)と比べ、平成22年8月~平成23年4月の累計での平年比が約10%少なく、福岡都市圏よりも筑後川流域が渇水傾向でした。

 ④ 30%の自主取水制限 

 過去の渇水対策では自主取水制限率は最大20%でしたが、今回は福岡都市圏域内にある各構成団体が保有する水源の貯水率が高く、自助努力が可能であったため、30%の自主取水制限を実施しました。

 ⑤ 構成団体間での協力

 筑後川の取水制限40%時は約25%の送水制限でしたが、構成団体の内3団体が他の構成団体より協力を受け、蛇口への影響を回避することができました。また、実施されませんでしたが、筑後川55%取水制限をした場合、約36%の送水制限となり、構成団体の半数以上が他の構成団体からの水融通を受けるか、給水制限あるいは減圧給水を実施したものと思われます。

⑥ 海水淡水化施設の増量運転

 海水淡水化施設は、夏期の3か月間は最大50,000㎥/日で、当時、その他の月は最大40,000㎥/日の運転としていました。今回の渇水では、平成22(2010)年12月24日から50,000㎥/日のフル稼働を開始し、流況が安定した平成23年5月中旬まで継続して増量運転した結果、構成団体の送水制限を約5%程度軽減できました。同時に筑後川水系ダム群の貯水量温存に効果を発揮したと思われます。

 

(5)令和元(2019)年度の渇水

ア 気象状況

 筑後川「瀬の下地点」上流域の降雨量(以下「上流域降雨量」)については、平成30(2018)年後半から少雨傾向が続き、特に平成31年4月の降雨は平年の68%(104.7㎜)、令和元年5月の降雨は、過去最少の平年の25%(51.5㎜)を記録するなど、少雨傾向が顕在化していました。

 筑後川本流の流量低下を受けて、5月16日に、大山ダム、合所ダムの利水放流が開始され、5月18日に、江川・寺内ダム、合所ダム、大山ダム、筑後大堰の利水放流が開始されて以降、利水放流及び貯留制限の再開・停止を繰り返しながら、江川・寺内ダムを含む筑後川のダムの貯水量は低下の一途をたどりました。

 また、期待された梅雨の雨量も、梅雨入りが、統計を取りだした1951年以降最も遅い6月26日となり、6月雨量は、平年の45%(182.8㎜)に留まりました。

 6月30日には、江川・寺内ダムの利水容量は、令和元年の最低(江川・寺内ダム全体利水容量12.6%、当企業団容量7.6%)を記録しました。

 その一方、瀬の下地点上流域については、6月26日に梅雨入り後、7月4日まで9日間連続で降雨を記録し、この間の雨量は累計で170.2㎜となり、この間、江川・寺内ダムも若干の貯水量回復(江川・寺内ダム全体利水容量14.7%、当企業団容量11.2%)が見られました。

 7月の上流域降雨量は469.5㎜で、ほぼ平年並みの降雨(平年雨量の112.5%)を記録し、特に7月18日~7月23日の6日間は、台風5号の影響もあり263㎜の降雨となり、7月31日には、江川・寺内ダムも大幅に貯水量が回復(江川・寺内ダム全体利水容量72.8%、当企業団容量100%)しました。

 

イ 当企業団における渇水対応等

 ① 渇水対策本部設置から解散までの経緯

 5月になり、筑後川水系ダムの貯留制限・利水放流が断続的に行われるなど、渇水傾向が進む中で、当企業団は、6月17日「異常少雨対策本部」を設置しました。

 これ以降、海水淡水化施設生産水の増量、筑後川下流用水への節水協力等行ってきましたが、流域の水事情は好転せず、6月25日17時に「福岡地区水道企業団渇水対策本部」を設置しました。

 また、渇水対策本部と同時期に筑後川下流域への水融通も実施され、その後、筑後川水系渇水調整連絡会が適宜開催され、3次に渡る渇水調整がなされましたが、7月に入り、水源状況が好転していく中、海水淡水化施設の生産水量も段階的に減量し、7月29日「福岡地区水道企業団渇水対策本部」を解散しました。

 

 ② 海水淡水化施設生産水の増量対応等

 海水淡水化施設は、年間平均で約2万㎥/日の生産を行っていますが、今回の少雨傾向を受け、段階的に生産量を増加し、4月27日に2万7千㎥/日、5月29日に3万㎥/日の生産に移行しました。

 その後も徐々に生産水を増加して6月27日に5万㎥/日運転に移行し、7月16日までの20日間継続しましたが、7月は平年並みの降雨があり、筑後川流域の水事情が好転していく中、7月17日より4万㎥/日、7月23日には3万㎥/日と徐々に生産水量を減じ、8月1日以降は2万㎥/日となりました。

 なお、海水淡水化施設が5万㎥/日運転を行ったのは平成24(2012)年9月8日以来でした。

 

 ③ 自主取水制限

 平成31(2019)年3月以降、少雨傾向が続き、令和元(2019)年となった5月16日~5月18日に、大山ダム、合所ダム、江川・寺内ダム、筑後大堰の順に貯留制限・利水放流が開始され、その後、貯留制限・利水放流の停止と再開が繰り返し行われました。

 5月29日以降は、海水淡水化施設3万㎥/日運転を行い、10~12%の自主取水制限を行ないました。 

 この間、水源状況の悪化が更に進み、農業用水が枯渇していき、農業用水確保のため、当企業団を含む新規都市用水の寺内ダムと江川ダムの容量振替が実施(6月14日)されました。

 また、江川・寺内ダムの持ち分が最低ラインとなった6月末において、筑後川下流用水への水融通を行うこととなり、それに伴い山口調整池からの取水が6月25,26日実施され、自主取水制限率は、6月25日34%、26日30%となりました。

 6月26日第1次渇水調整事項により、当企業団、福岡県南広域水道企業団、佐賀東部水道企業団は、江川・寺内ダムに持つ利水容量の中から約80万㎥を両筑土地改良区に融通することが決定されました。

 また6月27日から海水淡水化施設5万㎥/日運転となり、これ以降徐々に取水制限率を高め、7月1日より17%自主取水制限を続けました。

 7月後半になると、台風5号の影響によるまとまった降雨もあったことから、7月17日以降、海水淡水化施設の段階的減量と合わせて、自主制限率も13~8%の範囲で段階的に緩和していき、8月1日から海水淡水化施設2万㎥/日運転となり、筑後川からの取水も通常どおりとなりました。

 

 ④ 各構成団体の対応

 筑後川の水源状況の悪化と並行して福岡都市圏の水源状況も悪化が進み、一番厳しかった6月下旬において、各構成団体の自己水源の貯水率で、60%未満の構成団体は、福岡市、大野城市、古賀市、太宰府市、篠栗町、糸島市の5市1町に及びました。

 今回の渇水で、水事情の厳しい影響を受け、福岡市、大野城市、春日那珂川水道企業団、糸島市は渇水対応組織の立ち上げ等の対応を行いました。

 

 ⑤ 筑後川流域農業用水の状況

 6月26日には、第1次渇水調整事項として、当企業団、福岡県南広域水道企業団、佐賀東部水道企業団は、江川・寺内ダムの持ち分約80万㎥を両筑土地改良区へ融通しました。 

 また、筑後川下流域の左右両岸の農業用水は、渇水状況が悪化する中、筑後大堰より下流の河川環境を配慮して、自主節水を行っており、このような状況下、令和元年6月24日に、当企業団に対して、福岡県より「筑後川下流域の渇水対策に係る協力について」として、山口調整池の活用等の支援策の検討要請があり、当企業団としては、筑後川下流域の農業者への配慮を示すため、山口調整池から補給を行いつつ、筑後川からの取水量を減らす自主節水(6月25~26日で7万㎥)を行うこととしました。